現代社会が抱える深刻な分断と不安のただ中で、私たちは「個」という孤独の檻に囚われている。アーティスト・森万里子は、自らが体験した圧倒的な光の記憶──あらゆる次元へと遍く広がる、生命の根源的な愛──を通じて、私たちが本来持っているはずの「すべての生命が繋がっている」という感覚を静かに呼び覚ます。
本展の核となる《Shrine II》は、春日大社摂社・水谷神社の床下に鎮座する聖なる磐座(いわくら)へのオマージュであり、幾重にも配された几帳の中心にクリスタル製の磐座が据えられるインスタレーションである。古来より龍神信仰の霊地として崇められてきた水谷川の聖性をタイム堂の空間へと移し替える本作は、目に見える物質世界と、その背後にある霊的な世界とを結ぶ「関係性のネットワーク」を可視化している。
空間を囲むように展示される七点の掛軸には、アーティスト自身が体験した光の記憶が、平安古筆の息づかいに身を委ねて詞書として運筆されている。意味を伝える記号としての文字を超えて、筆跡の微細な震えや墨の濃淡が、生命の脈動そのものを伝えてくる。キュレーターとしての私見を交えるならば、その連続する筆跡の中に、途切れることのない深い時間の「持続」を見出すこともできる。
不可視の巨大な不安や環境の危機に直面する現代において、森が提示する「聖域」は、単なる日常からの逃避ではない。それは、私たち一人ひとりの内に厳然と存在する静かな光へと立ち返り、魂の永遠なる絆を再発見するための、切実で根源的な表現実践なのである。