森万里子展:Shrine Ⅱ—内なる光のトポロジー

Artist: 森万里子| Mariko Mori

Statement

現代社会が抱える深刻な分断と不安のただ中で、私たちは「個」という孤独の檻に囚われている。アーティスト・森万里子は、自らが体験した圧倒的な光の記憶──あらゆる次元へと遍く広がる、生命の根源的な愛──を通じて、私たちが本来持っているはずの「すべての生命が繋がっている」という感覚を静かに呼び覚ます。

本展の核となる《Shrine II》は、春日大社摂社・水谷神社の床下に鎮座する聖なる磐座(いわくら)へのオマージュであり、幾重にも配された几帳の中心にクリスタル製の磐座が据えられるインスタレーションである。古来より龍神信仰の霊地として崇められてきた水谷川の聖性をタイム堂の空間へと移し替える本作は、目に見える物質世界と、その背後にある霊的な世界とを結ぶ「関係性のネットワーク」を可視化している。

空間を囲むように展示される七点の掛軸には、アーティスト自身が体験した光の記憶が、平安古筆の息づかいに身を委ねて詞書として運筆されている。意味を伝える記号としての文字を超えて、筆跡の微細な震えや墨の濃淡が、生命の脈動そのものを伝えてくる。キュレーターとしての私見を交えるならば、その連続する筆跡の中に、途切れることのない深い時間の「持続」を見出すこともできる。

不可視の巨大な不安や環境の危機に直面する現代において、森が提示する「聖域」は、単なる日常からの逃避ではない。それは、私たち一人ひとりの内に厳然と存在する静かな光へと立ち返り、魂の永遠なる絆を再発見するための、切実で根源的な表現実践なのである。

Message

私は、かつて経験したことのない圧倒的な輝きに包まれました。それは、あらゆるものを包み込む光の世界であり、まるで太陽の光芒のように降り注ぎ、そのあまりの荘厳さに、目を開けていることすらできませんでした。

その光は、単なる物理的現象ではなく、あらゆる生命の根源に存在する、深遠で無限なる愛そのものの顕現でした。その祝福は、この世界のみならず、あらゆる次元へと遍く広がっていました。

その神聖な瞬間、私は偉大なる光との深い結びつきを感じました。そして、どの魂も決して孤独ではないのだという確信に、心は満たされていきました。私は、この永遠なる絆をかたちにする試みを続けています。

《Shrine II》では、几帳のインスタレーションの中心にクリスタル製の磐座が据えられています。これは、春日大社摂社・水谷神社の床下に存在する、漆喰で固められた聖なる磐座へのオマージュです。水谷神社は、龍神信仰でも知られる聖なる水谷川沿いに鎮座し、奈良時代以来、霊地として崇められてきました。

《Shrine II》は、心の内に存在する聖域――偉大なる光とつながる場――を象徴しています。

八点の掛軸には、平安時代の古筆の筆使いに倣い、その光の体験を詞書として記しました。現代には失われつつある豊かな息づかいを宿す平安古筆に身を委ねるように運筆することで、文字に生命が宿り、光の世界の気配を伝えられればと願っています。

いま、分断や不安が深まる時代の中で、私たち一人ひとりの内に存在する静かな光へと立ち返る契機となれば幸いです。

森 万里子
2026年5月27日 ニューヨークにて

Artist

森万里子| Mariko Mori

存在の根源的な問いを探求し、人類と宇宙との関係を考察する作品で知られる、国際的に高く評価されている多分野にわたるアーティスト。彼女の大規模なパブリックアートは、先端技術と古代の象徴を融合させ、精神的なつながりと生態系への意識を呼び起こす。精神性の探究と未来的な美学を結びつけることで、自然、人類、そしてテクノロジーが調和する関係性を描き出している。2003年に発表された没入型インスタレーション《Wave UFO》により国際的な注目を集め、クンストハウス・ブレゲンツ、第51回ヴェネチア・ビエンナーレをはじめとする世界各地の主要美術館で展示された。2007年から2011年にかけて開催された個展《Oneness》は、ヨーロッパ、南米、アジアを巡回し、2011年にはリオデジャネイロのブラジル銀行文化センターにおいて、累計538,328人の来場者を記録し、同年世界で最も多くの来場者を集めた現代美術展となった。

森はこれまで、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(ロンドン、2012年)、ジャパン・ソサエティ(ニューヨーク、2013年)、東京都現代美術館(2002年)、ポンピドゥー・センター(パリ、2000年)、ブルックリン美術館(ニューヨーク、1999年)、シカゴ現代美術館(1998年)など、世界の名だたる美術館で個展を開催している。また、ニューヨーク近代美術館(MoMA)およびソロモン・R・グッゲンハイム美術館など、主要美術館のパーマネントコレクションにも作品が収蔵されている。2025年には、大阪・関西万博にてパブリックスカルプチャー《Cycloid III》が公開され、ウィメンズ・パビリオンには《Peace Crystal》が展示されている。

Photo by David Sims

Composition

本展は、空間の中核をなす立体インスタレーションと、壁面を囲む掛軸の共鳴によって、ギャラリー全体を私たちの知覚をひらく「聖なる場」へと変容させる。

1.《Shrine II》── 宇宙との繋がりへのインターフェース

本展の核となる立体インスタレーション《Shrine II》は、歴史の記憶が宿る聖なる磐座へのオマージュとして構築される。幾重にも配された几帳の中心に、クリスタル製の磐座が据えられる。古来より霊地として崇められてきた場の聖性を、京都・タイム堂の空間へと転移させる本作は、古代の自然信仰と現代の洗練された造形が交差する地点である。無数の光を反射・屈折させるクリスタルの輝きと几帳のたなびきは、目に見えないエネルギーを現前させ、鑑賞者の意識を深層の霊的なネットワークへと静かに接続していく。

2. 七点の掛軸 ── 生命の脈動の運筆

空間の周囲には、七点の掛軸が展観される。平安古筆の息づかいに身を委ね、アーティスト自身が体験した光の記憶が詞書として運筆されている。意味を伝達するための単なる文字を超え、筆跡の微細な震えや墨の濃淡を通じて、深遠なる時間と生命の脈動へと還流させる表現である。時間の経過とともに変容する自然光の中で、和紙と墨が織りなす空間は、鑑賞者の内なる記憶と静かに共鳴する。

Context

「日常」と「永遠」を繋ぐ位相空間

歴史の重層性と人々の営みの息づかいが交差する京都・タイム堂。このように歴史が幾重にも積層した空間の只中に、森万里子の《Shrine II》が出現することに本展の決定的な意義がある。

ここで提示される「聖域」は、外部から切り離された非日常のアートスペースではなく、京都御所を目前に戴くタイム堂という特権的な歴史的・地理的文脈のなかに置かれることで、静かな必然性を獲得する。千年にわたり時の積層と人々の営みを受け入れてきたこの土地の記憶は、森の《Shrine II》が内包する古の霊性と深く共鳴する。

聖なる光は決して遠い彼方の概念ではなく、この街の日常と地続きの歴史の内に厳然と息づいている。御所の緑陰と現代の時間が交差するタイム堂という場が媒介となることで、作品は鑑賞者の「内なる光」へとごく自然に浸透し、自己と世界を静かに繋ぎ直す親密な体験として立ち上がるのである。

Overview

会期:
2026年11月6日(金)– 2027年3月31日(水)

内覧会:
11月5日(木)(予定)

開館時間:
11:00–18:00

休館日:
月曜

主催:
タイム堂ギャラリー

キュレーション:
飯田高誉

関連情報:
10月30日より森美術館にて
「森万里子:燦燦」開催

Press

森 万里子:Shrine II ─ 内なる光のトポロジー 開催のお知らせ

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